明日、嫁に行きます!
帰宅後、自分に与えられた部屋に引き籠もった私は、頭を抱えながら煩悶していた。
鷹城さんの言葉や態度に、過剰なほど反応してしまう。戸惑いを隠しきれなくなっている。
もはやダダ漏れかも知れない事実に、羞恥で震える。
――――違う違う、好きとか違う!
頭をちぎれるほどに振って想いを否定する。
逢って間もない男を好きになるとか、私の常識では考えられない非常事態だ。
大人の色香に小娘が惑わされてしまったとか、気の迷いとか。
この想いは、きっと純然たる『恋』じゃない。
とにかく違うのだ、この感情は。
じゃあ何? と聞かれたら、答えられないけれど。
鷹城さんなんて、ハンサムで仕事が出来て、女性にすこぶるモテて。でも、徹くんも女性も好きで、博愛主義なバイかも知れなくて。
ふとした時に、怖い一面もあって、仕事場では意外なほど几帳面で、けれどそんな彼の生態は、どうしようもないくらいの散らかし魔で、片付けもろくに出来ない典型的なダメ男。
そのギャップが面白くて、彼の無表情を崩してやりたくて、ずっと見ていたいなんて思っちゃって……。
いや、違うから!
ずっと見ていたいって言うのは、この子どんな風に成長するのかしらお片付けちゃんと出来るかしら? みたいな、母性本能的な感情であって云々――――。
思いつく答えが全て言い訳にしか聞こえない。
こんな訳わかんない感情なんて知らない。今まで付き合ってきた男達には抱かなかった感情であることは間違いない。彼らにそこまで興味を引かれることなんてなかったから。
――――私は今、鷹城さんに興味を引かれている。勘違いしそうなほどに。
それは、単なる興味だけなのか、他の色が混じっているのか、今はまだ知るのが怖い。
だって、生きる場所が違いすぎる。
彼は大企業の若社長で、私はただの女子大生。しかも、多額の借金付き。
本来なら、そこに接点などなかったはずだ。
けれど、気がつけば、接点はいつの間にか結ばれてしまっていた。
そして今、こうして絡め取られている状態だ。
定まらない自分の心。いや、弱虫な心が定まってしまうことを恐れ、躊躇してるだけなのかも知れなかった。
気鬱な溜息が口からこぼれる。
――――お母さんならこんな時、なんて言うんだろう。
私とお父さんの時はね、なんて、惚気られてしまいそう。
ふふっと頬が緩む。
そして、寂しさに苛まれる。無性に家族に逢いたくなってしまった。
「あーあ。どうなっちゃうんだろ私……」
キャパシティーを超えた心が悲痛な声を上げ、救いを求めるように懐かしい家族の姿を求めた。