桜まち 


「ただいまー」
「お疲れ様でした。どうでした、今日の会議は?」
「どうもこうもないわよ。いつもと一緒。やる気あんのかね、うちの営業は」

愚痴りながら席に着く私へ、帰ってくる時間が判っていた、とでもいうように労いの言葉とともにコーヒーが手渡される。

「熱いから気をつけて下さいね」

言われなくても淹れたてだと判るほど、湯気がしっかりと上がっている。

「櫂君て。気遣いばっちりだよね」

カップのコーヒーに息を吹きかけて冷ましていると、そうですか? なんてとぼけた顔をしてみせる。

「出世したらさ、私のお給料上げてよ」
「僕、何処まで出世したらいいんですか?」

他力本願な私の発言に、櫂君が噴出して笑っている。

「私なんて、入力がスペシャルに速いくらいで他になーんにも取り得ないし。しかも女性なんて出世コースに乗るの難しいじゃない?」
「で、僕に上を目指せと? しかも、スペシャルにってさりげなく自分の能力自慢してるし」

櫂君はクククッと笑うと、帰りに飲みに行きましょうよ。と誘ってきた。

「いいねぇ~」

彼は、私の飲み友達でもあるんだ。


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