psi 力ある者 愛の行方 
愛する人と






  ―――― 愛する人と ――――





季節はめぐり、半年以上の時が過ぎていた。

母さんがいて、父さんがいる生活は、変わらず続いている。
転校した学校にもすっかり慣れ、友達もできた。

「惣領君、おはよ」

教室に入れば、黒谷慧は何もなかったような顔で俺に笑いかけてくる。
その顔を一瞥し、席に着いた。

「惣領、はよー」
「おはよ……。泉君」

泉君も相変わらずのようにこっちのクラスへ来ては、前の席に固まって友達と楽しそうに会話をしている。
授業だって、普段通りに進んでいたし、開放された昼休みの屋上は賑やかで、静かな図書室も変わらず。
いつまでも読みかけになったままの本もそのまま……。

その本を手に取り、机の上に置いた。
ページを捲ることなく、ただ表紙を眺め、一人で弁当を食べる。
窓からは、柔らかい春の日差しが降り注ぎ、時折、廊下からは騒がしく通る生徒たちの声が聞こえてくる。

放課後になれば、鞄を持ちサッサと教室を出るために椅子から立ち上がる。
一瞬、以前のように声を掛けそうになって口ごもった。
そうして、そんな自分を鼻白むんだ。

玄関で靴を履き替え、春の日差しの下、一人家路を辿る。
桜並木の続く、ピンク色した花びらの絨毯を踏みしめ、一人歩いてく。


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