スーツを着た悪魔【完結】
最高に美しい暴君

プロローグ



一度も体験したことがないのに、体験したことのように感じる――

それが確かデジャビュ……既視感と呼ばれる感覚だったと思う。


だとしたらこれは既視感ではないはずだ。

そう、違う……。


だって私は以前もこの景色を見たことがある。




場所は二次会のカラオケの廊下だった。



「ああ……ごめん。そういうつもりはなかったんです……。ただ君が、あんまりにも可愛いから……それに、彼氏がいるって言ってたよね? だから君が俺なんかに本気になるはずないって……」



最初は優雅に、善人の如く、柔らかい物腰で相手に接して丸め込もうとするのだけれど……けれど相手が自分の思い通りにならないと知るや否や

手のひらを返したように、鬼になる――



「うるせぇなぁ……お前、何。一回寝たくらいで俺の女気取り? 今更本気って冗談やめろよ。男いるくせに俺と寝た時点で本気なんて言葉信じられるわけねえだろ。気持ち悪いんだよ。つーか、そもそもこの携帯番号どっから知った? 今俺、相当引いてるよ? おい、わかってる?」



優雅で美しい最低最悪の暴君は、最新機種のアイフォンを耳に押し付けたまま、まるで商談でもしているかのように、美しいスーツ姿で女の子を罵って……

一方的に通話を終わらせ、携帯をスーツの内ポケットに滑り込ませる。


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