ジルとの対話
Chord E
ひたすら鍵盤に打ち込み、朝を呼ぶヒバリのようにジルは自由だった。紡ぎ出されるメロディーは生まれては消える。
ただ、外へ出ぬ音の響きが、時を告げた砂時計のごとく無意識から、顕在意識へ持ち上がるのを待ちわびているが、依然水溜まりの泥のように沈澱している。
彼には、落ち行く深層心理の世界の音楽がどれほど美しいか知らない。
 顕在意識に上る物質的働きかけでは、もろく儚い幻であると言える。無意識の物質的働きを超えた可能性は、実現不可能である。
鍵盤の限界と自らを顧みる神話的安らぎと葛藤の日々、そこへエレクトリックという技が増えてジルは高揚した。
可能性は無限に開かれた。
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