天翔ける君
山吹色の妖



山吹が言った。
千鬼が結婚するかもしれない、と。

季節は桜の見ごろで、ちょうど恵都が夕焼けに照らされる桜を眺めている時だった。

千鬼の屋敷の庭には桜や紅葉、他にも数種類の木々が植えられている。
恵都がやって来た頃はちょうど紅葉が盛りで、そろそろ半年が過ぎようとしていた。

家事がひと段落して、もう少ししたら千鬼が起きてくる時間だな、とぼんやり思っていた時だった。

「千鬼が結婚するかも」

そう言った山吹は別段めでたいことだと思っていないのか、いつもの立ち話と変わらない口調だった。

あまりにも唐突で、驚いた恵都は間抜けな声しか出せなかった。

千鬼って何歳なんだろう、とか、こっちの世界にも結婚って制度があるんだ、とか、色々なことが浮かんでは消えた。
でもなぜだか山吹を引き留めて問う気にはなれなくて、恵都はただ桜を眺めた。


――千鬼が結婚する。

千鬼は美しい妖で、恵都の感覚で言えばまだ結婚するには早いような気がするが、別におかしなことではない。



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