恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



美鈴は目を細め、感心したように雪也を見る。

二人の姿を無言で見つめ、花澄は内心でため息をついた。

――――そう。

美鈴は昔から雪也に好意を抱いており、雪也もまんざらでもない感じなのだ。

花澄と美鈴、そして月杜家の兄弟の間での『婚約』はまだ正式なものではなく、どちらがどちらとと決まっているわけでもない。

しかしこのままいくと多分、美鈴と雪也が結婚することになるだろう。

花澄は雪也に憧れめいた感情を抱いてはいるが、美鈴のようにはっきりとした恋愛感情を抱いているわけではない。

それに例え、雪也を好きになったとしても……きっと自分は、その想いを伝えることはできないだろう。

なぜなら……。


「……」


花澄は内心でため息をつき、窓の外を見た。

――――幼い頃に幾度か聞いた、母の言葉。


『……だめよ。選んだのは花澄、あなたなのだから』


心に纏わりつく、母の言葉。

10年以上経った今でも花澄の心を縛る、あの言葉。



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