恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



「……暑そうだな、その髪。縛った方がいいんじゃないのか?」

「……」

「この時期は湿気が多い。放っておくとキノコが生えるぞ。ただでさえお前の髪はワカメのように……」

「ちょっと! 黙ってるからって、好き勝手言うんじゃないわよっ」


花澄が目を剥くと、環はくすりと笑った。

……昔とは違う、目線の高さ。

なぜか何も言えなくなり、花澄はぐっと言葉を飲み込んだ。

そんな花澄の前で、環は剪定鋏を脇の木に引っかけ、手にしていた枇杷の皮を剥く。

環の体から香る、甘く濃密な花の香り。

その香りに混ざり、枇杷の瑞々しい香りが花澄の鼻をくすぐる。


「……それ、今年の初物?」


と聞くと。

環は軽く頷き、皮を剥いた枇杷を花澄の口に押し込んだ。


「……っ!?」

「それは甘いはずだ。鳥がつついてたやつだからな」


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