恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
自分の心とは違う振る舞いをすればするほど、澱のようなものが心に溜まっていく。
雪也はきっと『大事なものに執着する』ことで、無意識のうちに心に溜まった澱を忘れようとしたのだろう。
そう花澄が言うと、雪也は驚いたように目を見開いた。
「さすがだね、花澄ちゃん。やっぱり君は、俺のことをよく見てる」
「……そうかな?」
「そうだよ。……俺が鳥を飼わなくなったのは、俺の執着心で鳥を籠に入れておくのは可哀そうだと思ったから。……執着心だけなら、放してやれる。でもね……」
雪也はそこで足を止め、花澄を見た。
そっと腕を上げ、指先で花澄の頬に触れる。
……朝の空気で少し冷えたその指先。
驚き顔を上げた花澄の目に映ったのは……
切なげな光を帯びた、雪也の瞳だった。
「……それに違う感情が絡むと、簡単に放すわけにはいかなくなる」
「え……?」
「放した鳥が、他の人間に庇護されていないか。自分が与えた餌以上に美味しいものを、その人間が与えていないか。その人間の前で、あの可愛い声で鳴いていないか……」
「……?」
「そう考え始めると、放すわけにはいかなくなる。何としてでも自分の手元に置いておきたくなる。……ま、これは例えだけどね?」