恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
「……広瀬さん……」
花澄は広瀬の純朴そうな顔を思い出し、眉をしかめた。
……優しかった彼。
工務店の仕事に誇りを持ち、これからは配管だけではなく内装の仕事も請け負っていきたいんだと目を輝かせていた彼。
彼と一緒にいると、心が和んだ。
しかし……。
別れを告げられたというのに、広瀬の金回りの方が気になる自分。
突然降ってわいた大金や身分不相応な金は、人生を狂わせてしまう。
フラれたことより、そちらを気にしている自分自身に花澄は苦笑した。
────やはり自分は、まだ……。
胸の奥に秘めた傷が、軋むように痛む。
いつになっても癒えることのない、傷……。
花澄は鞄から携帯を取り出し、ストラップをじっと見つめた。
シリウスを象った小さな銀のチャームが、揺れる心を映しだす。
7年も経っているのに捨てられないのは、自分の心にまだ彼がいる証拠だ。
花澄は痛みを振り切るように唇を噛みしめ、携帯を鞄にしまい駅の方へと走り出した。