恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
「冬はハンドクリームを欠かすなとあれだけ言ったのに……。にしてもまさか、お前がここまで堕ちているとはな……」
言葉とともに、ガサガサとスーツのポケットが探られる。
スーツのポケットには、夕方に駅前で貰ったキャバクラの名刺が入っている。
やがて花澄の耳に、ビリッと紙が破られるような音が聞こえた。
そして続いた言葉を、花澄は意識が朦朧とする中、ぼんやりと聞いていた。
「六本木になど行かせるわけがないだろう。────お前を破滅させるのは、このおれだ」
甘い蠱惑に満ちた、その声。
危険だ、と心のどこかが警鐘を鳴らす。
しかし酒に意識を阻まれ、目を開けていることすらできない。
いつのまにか膝裏に手を回され、ゆっくりと体を抱き上げられる。
甘くスパイシーな香水の薫りの下に漂う、濃密な花の香り。
……そう、まるで秋の曼珠沙華が香ったらこういう香りかと思うような、甘く、溶けるような心地よい香り……。
花澄はその香りになぜか懐かしさを感じながら、眠気に呑まれるように目を閉じた……。