スーツを着た悪魔【完結】

――――……



式を控えた教会の控室。



「突然結婚するなんて驚いたけど、本当に、あんな素敵なお嬢さんそういないわよ!」

「重役の娘だってね。だったらお兄ちゃん、逆玉じゃん!」



叔父夫婦と従妹のメミは久しぶりに帰国した自慢の悠馬にべったりと張り付きはしゃいでいる。輪の中心の悠馬は穏やかに微笑んでいるだけだ。


まゆも最初は同じ部屋にいたのだが、まったく無視されているので、いたたまれなくなり控室を出て一人で中庭をうろうろと散歩していた。


式が行われるのは、ホテルの敷地内にある教会だ。

どんなものだろうと、教会へとなんとなく足を向けたまゆだったが、なんだか近づくのは恐れ多い気がしその場に立ち止まり、遠目に教会を眺めて、うっとりと目を細める。



悠ちゃん、急に帰ってきて結婚だなんて驚いたな……。

でも奥さんになる人、とってもきれいな人だった。

悠ちゃんだったら、きっと幸せな家庭を築くんだろうな。


幸せな家庭――


自分には生涯無縁な言葉だ。

ズキンと胸が痛くなる。



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