春に想われ 秋を愛した夏


「好きなんだ」
「……やめて」
「やめない。やっと逢えた香夏子を、今度は失いたくない」

意味がわからない。
失いたくないって……。
自分からふっておいて、何を言ってるの。

「勝手なこと言わないでよ」
「勝手なのはわかってる。けど、あの時からずっと後悔してた。香夏子が大事すぎたんだ。だから、そばに置いてしまった時、もしもいなくなった時のことを考えたら恐かった。香夏子がいなくなるくらいなら、ずっと四人でいるその形を護り続けたかった。なのに、あの日。俺は、感情を抑えられなくて、香夏子は結局俺の前からいなくなった」

何を言って……。
勝手なことばかり、言わないでよ。

「もう、離れたくない」
「だから、勝手なこと――――」

私の言葉を遮るように唇を奪われた。
きつく抱きしめられて、頭を抱え込まれて。
考えることも、しゃべることもできなくなるくらいの、強引で乱暴な秋斗のキス。

そんなキスなのに。
涙が出るのはどうして。
心が震えるのは、どうして。
悔しいくらいに感情を揺さぶられるのは、どうして――――。


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