「香夏子」

そばにいて欲しいと望む瞳に惹かれていく。
だけど、信じられない、と思う気持ちもあった。
今更そんなことを言われたからといって、そうなんだ。とすんなり受け入れ信じられるはずがない。
それがもしも本当だったとしても。

「……放して」

抱きしめる胸を押しのけ、秋斗の目を見た。

もう遅いよ。
遅いのに……。

「私、今春斗と付き合ってる」

目を逸らしたら気持ちが負けそで強気な視線で言い切ると、私の言葉に秋斗の目が大きく見開いた。

「春斗……?」

どうして……。と小さく漏らし、秋斗の手が力なく垂れ下がった。
突然出てきた名前に驚いているみたいだった。

「春斗は、ずっと私だけを見てくれていた。春斗は、私のことをちゃんと大切にしてくれてる」
「いつから……?」

呆然とした表情で、秋斗が訊ねる。
思ってもみなかった春斗という存在に動揺をしながらも、すぐに気持ちを切り替えたのか、私に向かってまた強気な口調になった。

「春斗のことが好きなのか?」

問われたことに、まるで悪いことでもしたように何故だか気持ちが萎縮していった。

好き?

秋斗に問われたことに、私はすぐに応えられなかった。

「は、春斗は、優しいもの。いつだって私の事を考えてくれる」
「好きなのかどうかを訊いてるんだよ」

責められるようにされると、グッと喉の奥に何かが詰まったように余計に言葉が出てこない。

私は、春斗のことを……。

「そんなんじゃ、俺は諦められない」

いうだけ言うと、秋斗が踵を返す。

「あきとっ」

呼び止める私の声に振り向くと、怒ったように言葉を吐き出した。

「俺の気持ちは、変わらない」

だけど、その言葉とは裏腹に、とても寂しそうな背中が夕闇の中小さくなっていくのを、私はただ見ているしかできなかった。