春に想われ 秋を愛した夏


翌朝。
私は、少し余裕を持って家を出ていた。
いつもどおり会社までの道を歩きながら、途中で寄り道をする。
朝から自分で食事を作る気力はないので、昨日ラテを買ったカフェでモーニングを食べようと思いついたんだ。
ここなら会社までも近いし、丁度いい。

窓辺のカウンター席に座り、モーニングで買ったホットコーヒーとたっぷりと野菜の挟まったサンドイッチの乗ったトレーを置く。
そのボリュームに若干たじろぎつつも、手を合わせた。

「いただきまーす」

誰にともなく小さな声で言って、野菜たっぷりのサンドイッチにかぶりつく。
たっぷりと挟まる新鮮野菜のさっぱりとした感じが口に広がり、完食できるかもしれない。と強気に思ってみた。

けれど、ホットコーヒーを飲みつつ、ゆっくりと一口二口と食べていくと、半分ほど食べたところで胃がかなりの満腹感に襲われた。
昨日、春斗が作ってくれたうどんのようにはいかないらしい。

さっきの強気な思いは何処へやら。
出社までまだ余裕があるし、ちょっと時間をかけて食べればいいか、と一旦サンドイッチから手を離し、ぼんやりと窓の外を眺めながらホットコーヒーのマグを両手で抱えた。

ここのところまともな食事をしていなかったせいで、胃が小さくなっているのかなもしれない。

目の前にある食べかけのサンドイッチに視線をやって、やっぱり食べきれないかもしれない。と早くも乾燥し始めた食パン部分に手を触れていると背後から声をかけられた。

「まだ残ってるぞ」

突然かけられた声に驚いて、むせ返る。
ケホケホッと咳き込んでいると、その姿を笑う人物が空いている隣の席に躊躇いもなく腰掛けた。


< 66 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop