あなたまでの距離
一生の恋-side 悠哉-

戸惑い

彼女…沙耶が入社して、同じ部署に配属されたのを、はっきり覚えてる。

高卒で、ホントにあどけなくて。
でも、必ず後5、6年経ったらいい女になる。そんな感じの子。



男性社員が8割を占めるうちの会社で、人見知りもしない、物怖じもしない、彼女が課内で一目置かれるのにそんなに時間はかからなかった。




ある日、喫煙所でタバコを吸ってると、先輩の佐藤さんが話しかけてきた。


「おい、高木」


「あ、お疲れ様っす。佐藤さん。えらくご機嫌ですね」

そんなに愛想が悪くもないひとだけど、今日はやたらとニコニコしてる。


「いやー、マキちゃんと話しててさー。」

「マキちゃん…?あぁ新入社員の牧野さん?」

「そうそう。俺、あの子の笑顔がたまんないんだよね〜。すっげーつぼ」

笑顔…?

怪訝な表情のオレを見て、佐藤さんは更に説明を続ける。

「常に笑顔だろー。愛想笑いにみえないの。もうすっげー可愛い。」

「…佐藤さん、ロリコンでしたっけ?」

煙草の火を消しながら、尋ねる。
この人と牧野さんは、15歳は離れてるんじゃないか?

すると、佐藤さんは溜め息をつきながら首を横に振った。

「違う違う。
何か雰囲気とかさ、まだまだあどけないけど、あの性格だろー。
頭の回転がいいし、俺たちおっさんに物怖じせずに仕事覚えようと必死なのが、見ててたまんない。

ありゃ間違いなくイイ女になるぞー。」

言い終わって、佐藤さんがコーヒーを口に含む。

「…佐藤さん、恋しちゃったんですか?」


瞬間、佐藤さんが思い切りむせて、焦りだした。


「バカ野郎。幾つ違うと思ってるんだよ!俺結婚してるし。」




仕事と家庭一筋の佐藤さんに、こんな淡い恋心を抱かせる牧野さんって、スゲーな。



この時、それだけしか思わなかった。









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