【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「……っ、ちょっと法資ってば。今こういうことしてる場合じゃ」
「式なんて、俺はおまえがいいようにすればそれでいいって言ってるだろ」

そういって背後から抱きすくめてくる。


「いくら掛かろうと、費用は出してやるからさ」



法資に挙式を持ちかけられてから、何度も言われたことだった。


彼自身はとりあえず早く入籍を済ませて泰菜をシンガポールに呼び寄せたいらしく、挙式などしてもしなくてもいいくらいに思っているようだけれど、自分が結婚式も挙げてやれないような甲斐性なしだと思われるのは不服らしく、泰菜がシンガポールに来る前に日本で挙式を済ませてしまったほうがいいんじゃないかと言い出した。

シンガポールに呼んでからでは式を挙げるタイミングを逃してしまいそうだからというのも理由らしい。


だからこの数ヶ月、泰菜は平日の仕事後や休日はずっと結婚情報誌とにらめっこしてばかりだった。




『費用のことは心配するな』
『式なんておまえが主役みたいなものなんだから、どこでも好きな会場を選べ』
『おまえの好みで決めたことに否とは言わないから』


『おまえが望むようにするといいよ』



そういって法資は結婚式の一切を泰菜に決めさせてくれる。非常にありがたいことだと思う。でもそう思う一方で、何か腑に落ちない気持ちがあるのも事実だった。





「おまえさっきからずっと調べ物ばかりだな」

そう言って法資が服の上から胸を探ってくる。


「なっ、……法資、」


開いていた雑誌は、もう片方の手で閉じられてしまう。


「やめてよ、今これ見てたのに。邪魔しないで」
「いったん終わりにしろよ」

「だめよ、法資が帰国してる間にちょっとでも決めておきたいんだから。ねえ、法資ももうすこし式場のこと」


拒む泰菜の腕を掻い潜って再び法資が泰菜の胸に手を伸ばす。それも今度はスキンシップなんてものではなく、『抱きたい』という意思表示がはっきり込められた大胆な手付きで揉みしだいてくる。


「……っ……法資、やだ……っ!」
「なんか。ずっと泰菜の後ろ姿見てたら、昨日おまえを俺の上に乗っけたときのこと思い出して盛ってきた」

「……………はあ……?」

法資が愉快げな顔で畳の上に押し倒してくる。


挙式のことで頭がパンクしそうだというときに、しかも普段離れて暮らす法資と直に話し合うことが出来る貴重なひとときだというのに、なんで時間が限られた今、こういうことをしようとするのか。

いくら触れ合うことが半年振りだからといって、なんて自分本位なんだと唖然としていると、法資が黙っていればかなりの男前な顔にいやらしい笑みを浮かべる。




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