(8)初めての始まり方


「……明日から、準備で大忙しだな」

開いたままの結婚情報誌やノートパソコンが散乱したままの居間はもう明かりが落ちていた。代わりに布団がひとくみ敷かれた泰菜の自室に、ちいさな豆球が灯っている。

「違った。明日じゃなくて、もう『今日』からか」
「…っ……そうだね、もう2時過ぎてたんだ。明日起きられるかなぁ……」

何気ない会話をしながらも、布団に横たえられた裸の胸を法資の指がまるみに沿ってゆっくり頂点を目指してくるから、上擦った声になってしまう。

泰菜の体の昂ぶりに気付いている様子で、オレンジ色の弱い明かりに色付けられた法資はどこか愉しげな顔になった。

「まさかそれって、遠まわしにお断りしてるんじゃないよな?」

苦笑しながら法資が横抱きにした泰菜の、上になった方の脚をゆっくりと持ち上げる。


「……拒むなら、もっとはじめからそうしてます……っ」
「それは助かる。ここまできたらもうこっちも後に引けないからな」


寝坊しそうになったら起こしてやるよ、と法資が甘く囁く。


「……法資だって、ほどほどにしないと、朝、起きられないよ……?」
「そういう心配は、終わってからにしとけよ」

苦笑とともに、やさしくかきまぜられていた場所から長くて骨っぽい指がそっと引き抜かれる。熱を孕んで指に糸を引きほど濡れたそこに法資がゆっくりと重なってきた。








ようやく一通り入籍や挙式のことを話し合い終えた後、どちらからともなく風呂場へ連れ立ち、狭い浴室でふたりでシャワーを浴びた。

泡のついたスポンジで泰菜の体を隅々まで洗い清め、あがる際にも同じくらい丁寧に泰菜が全身にうすく纏った雫をバスタオルで拭っていった法資は、されるがままでいる泰菜に世話を焼きながら、始終機嫌よくいろいろな話題を振ってきた。


シンガポールでの生活のことや、兄からメールで知らされた甥っ子の成長のこと、仕事先の新人の失敗談や、帰国して真っ先に食べたくなったというスナック菓子のこと。


時折意味ありげな位置で止まった手でいたずらをするように触れたり探ってきたりしながらも、法資は取り留めない世間話をしてリラックスしている様子さえ見せていた。


だから最初はこの夜の『はじめ方』にすこし戸惑った。



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