イジワル上司に恋をして

…………あれ。どっかで、お会いしませんでしたか、わたしたち。


瞬きもせず、その端正な顔を見上げていると、その人は、ふっと柔らかく目を細めた。


「今日から、ここのブライダルの部長に配属された、黒川優哉(くろかわゆうや)です。よろしく」


その表情と声に、ぱちぱちと目を瞬かせる。
声を出せないわたしに代わって、香耶さんが口を開いた。


「あ。この子はショップの方の、鈴原なの花さん。でも、ほとんど手が空いてるときはこっちのこともやってくれてるの」


香耶さんが紹介してくれて、慌てて頭だけ下げた。
そして、目下にある黒い靴を、じっと見る。


「あ、黒川くんの場所はそこであってるから」


香耶さんの声に、靴が視界から外れても、わたしは顔を上げずにいた。


「……なっちゃん? 大丈夫?」


――――え? ちょっと、待って。
今の人って……今の人って――――。


『すげぇイタイ奴』。


そう言った、あの店の男じゃ……。


そーっと頭を上げて、少し離れたデスクで整理してる“黒川部長”を確認する。

――間違いない、と、思う……。


わたしが混乱してる理由。
それは、あまりにもあの夜の男と、今、目の前にいた男が、違う顔をしたからだ。


「……香耶さん」
「うん?」
「歓迎会……出ます……」


半信半疑のわたしは、少しの興味本位と自分の記憶を確認するべく、香耶さんにそう言っていた。


< 16 / 372 >

この作品をシェア

pagetop