甘く熱いキスで
第四章:キスの温度

生きる意味

――どうして。

初めは、唯唯不思議だった。

ライナーの住む家に父親はおらず、母親だと教えられた女性は、いつだってライナーを蔑みの目で見て金切り声で罵った。

「お前さえいなければ」と、何度も嘆かれて泣いた。まだ幼い頃、祖父の留守中に彼女に乱暴されたこともある。
彼女が狂ったようにピアノを弾きながら泣き叫んでいたのが、今でも耳に残っている。「田舎者のピアニスト」「あの女さえ」「ヴォルフ様は私の夫となるはずだった」と、毎回同じフレーズをひどく軋んだ旋律に乗せていた。

『お前の母様は、心の病気なのだ』

祖父はそう言って、何度もライナーに謝った。ライナーがすべての事情を聞いたのは祖父が亡くなる直前で、6歳だったライナーはすべてを理解できなかったけれど……自分が“要らない”存在なのだということが心に深く焼き付けられるには十分な時間だった。

一方で、いつも母親が罵るヴォルフの妻――フローラ――は、ヴォルフとの間に生まれた子供をいつも愛おしそうに抱き、微笑んでいた。ライナーの覚えている限り、彼らを初めて見たのは3人目の子――2人目の王子が生まれたときの祝いのパーティだったと思う。2人の間で笑うライナーと同い年の王女の姿がとても眩しく、同時に羨ましく感じた。

どうしてライナーは、あの温かさに恵まれていないのか。母親は……どうしてフローラのように笑いかけてくれないのか。

祖父が一人娘を甘やかし、過度の期待をかけてしまったせいで噛み合わなくなった歯車は、元に戻ることはなく、ライナーは6歳のとき初めて父親に会う。育児放棄状態の母親からライナーを引き取った父親は、ライナーの将来の価値だけを見据えていた。

彼もまた、ライナーをひどく冷たい目で見る人間で、北地区の荒れた家には、父親の他にライナーにとって叔父である男の家族も住んでいた。

叔父も叔母も、従兄弟も……皆がライナーの存在を認めることはなく、ないものとして扱うか、彼らの機嫌が悪いときの玩具になる生活が始まった。
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