【完】女優橘遥の憂鬱
☆後悔・バレンタインデーサプライズ
 バレンタインの日。
私は彼と東京駅にいた。


実は海翔さんとみさとさん夫婦が、お世話になった方々に挨拶回りをするためにやって来るからだった。


私達と海翔さんはみさとさんには内緒で監督を訴えることにしまのだ。

そのための密談だった。


高校三年の生徒は期末テストや追試が済むと、週一の登校になる。

受験勉強や就職活動を円滑に進めるためらしい。

だから休暇を取った訳ではないのだ。

でも生徒には不評らしい、バレンタインデーに学校に行けないのは、恋する乙女にはキツ過ぎる試練だったようだ。




 『やっぱり訴えようか?』

あの日。
その言葉に躊躇しながらも頷いた。
そんなことを思い出す。


社長は、私に仕事を休むように言った。

本当は辞めさせるつもりなんだと思う。

彼が事務所開きまでアルバイトと言う形で手伝ってくれたので、殆どの資料が出来たからなのか?

それとも……


社長は私の苦しむ姿を見たくなかったんだ。
だからって遠くに追いやる訳ではない。

彼と一瞬に平穏に生きてほしいと思っただけなのだ。

社長の優しさに涙した。




 あの日以来笑えなくなった。


罪作りなのは私なのに、彼は自分のせいだと思い込んでいるようだ。

だから……
私を笑わせようと躍起になっている。


嬉しい。
嬉しくて涙が出る。
だから、又彼が心を傷めてしまうのだ。

もう一度彼の胸にすがりたい。
傍に居てくれないと、不安なんだ。




 彼は今頃海翔さんと打ち合わせしているはずだ。

私はみさとさんの見張り役。
彼女に何かあるといけないからだ。




 途中下車した駅は全く知らない駅のはずだ。

彼女は目隠しされたままで喫茶店に置き去りにされていた。

仕方なく、コーヒーを飲む彼女が切ない。

海翔さんは彼と会った後で卒業論文を提出する予定だ。


(ごめんなさい)
幾ら謝っても足りない。

私はただ物陰から、彼女だけを見つめていた。




 クリスマスムード一色だった新宿駅西口前。
其処を歩いていた彼女を社長がスカウトした。

社長はすぐに私に連絡をしてきた。


《凄い逸材発見。東口手前クリスマスツリーの前で待つ》
だった。


行って驚いた。
其処に居たのがハロウィンの悪夢撮影時に私と間違えられて監督達に拉致された神野みさとさんだったから……




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