狂々にして仄暗く
十二、悪魔に恋した天使
悪魔に恋をした天使がいた。
悪魔も天使に恋をしていた。
しかしながら、種族の違いにより、二人の恋は周りから酷く非難された。
「何としてでも、僕とあなたの仲を認めさせましょう」
結ばれないと泣く天使を抱きながら、悪魔は言う。
認めさせるために、悪魔は非難する者たちを根絶やしにすることを誓った。
周りから非難と暴力を受けた天使を庇護するため、悪魔は鳥籠を天使に与えた。
その鳥籠の中で自身の帰りを待つように言う。
一日目。
「どうして、抱き締めてくれないのですか?」
悪魔の腕は天使を抱けぬものに成り果てた。ーーそれでも、こちらから抱き締めることは出来た。
二日目。
「どうして、生きているのに冷たいのですか?」
悪魔の胴体は氷のように冷たく、触れる者の手を凍らせた。ーーそれでも、天使は悪魔と愛を交わせた。
三日目。
「愛しています。愛しています。あなたは?」
悪魔の口は獣と化していた。ーーそれでも、天使は悪魔に満面の笑みで告白する。
四日目。
「どうして、こちらを見て下さらないのですか?」
悪魔の目は閉ざされたままだった。ーーそれでも、天使は。
「どうして、どうして……」
愛し合っているのに、愛し合うことが出来ないのか。
どんな悲しみも包み込む優しい腕も、凍えた体を癒やす温かい体も、子守歌よりも安らかな愛を語る声も、見つめてもらえるだけで笑顔になれる穏やかな眼差しも。
「どうして……っ!」
悪魔は強くなり、天使との仲を反対する者を根絶やしとした。
彼らの仲を非難するものはいない。
これで、心置きなく愛し合える。
愛し合えるはずだった。
鳥籠の中、天使は泣き続ける。
鳥籠の外、悪魔は雄叫びを上げる。
喉が枯れ果てるまで。