恋のはじまりは曖昧で

前の席の弥生さんが机の上の片付けを始めていて、チラリと私に視線を向けた。

「紗彩ちゃん、終わった?」

「はい、終わりました。あとは資料室にこのファイルを返すだけです」

「そうなのね。待っててあげたいけど今日は用事があるから」

「気にしないでください。私もそれを返したらすぐに帰るので」

「ごめんね。じゃ、お先に」

弥生さんがバッグを手に営業のフロアを出ていくのを見送り、私は数冊のファイルを手に資料室へ向かった。

資料室に入り、照明のスイッチを押し電気をつけた。
節電のため、目的の棚があるエリアしかつけていない。

ん?
歩きながら天井を見上げると、心なしか蛍光灯の明かりが暗い気がする。
さっきから、何度かチカチカと点滅していたし。
そんなことよりファイルをしまわなきゃ。

資料室には莫大な資料が保管されていて、棚がズラリと並んでいて圧迫感を覚える。
その棚は部署ごとに分かれている。
棚に入りきらない資料は段ボールの中にもあり、それを今度、時間がある時に整理するからと言われている。

手に持っているファイルが置いてあった棚を探す。
自分が持ち出したファイルならどの辺りに置いてあったか覚えているけど、これは人に頼まれたもの。
しかも、営業部が使用している棚はたくさんあるので見つけるのは一苦労だ。

だいたいの予想をつけ、背表紙を目で追いながら探していく。
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