呉服屋の若旦那に恋しました

溢れだした感情




門の近くに美鈴さんに渡す予定だったお土産が置いてあったこと。

家に帰ったら衣都がいなかったこと。

その二つで俺は全てを悟った。

衣都に、美鈴さんとの関係を誤解された、と。



「中本さん……衣都が帰ってこないんです……」

「あら、喧嘩でもしたんですか?」

「浮気を誤解されたという表現が一番近いです……」

「浮気はしてなくとも、誤解されるようなことはしはったんですね」

「いや……あれは不可抗力だったんですよ……」

「誤解は解かなければ事実ですよ」


中本さんの言葉が、ぐさぐさっと胸に刺さった。

……衣都が家を出てから三日経った。

お土産を見た時から嫌な予感はしていたが、なにも出ていかなくても……。

五郎はくぅーんくぅーと泣いていたし、機嫌取りの為に買って帰ったケーキは無駄になったし、ひさびさに家で一人でいるのは正直寂しかった。

すぐに隆史さんに連絡を取って、そっちに帰っていることを把握したが、部屋に閉じこもりっきりで出てくる様子はないと言われた。

喧嘩して嫁が実家に帰ってしまった夫の気持ちがよく分かった。とてつもなく焦る。これに尽きる。


「あ、おこしやす、巣鴨さん」


中本さんの声に、俺はハッとした。


「どうも……ちょっとお話、いいですか?」


そこには、申し訳なさそうに佇む美鈴さんの姿があった。

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