ありがとう さよなら(短編)
相馬君 SIDE


  【相馬君SIDE】


五十嵐にキスをする俺の前で、沙良の瞳から涙が零れ落ちているのが見えた
後から後から零れ落ちる涙に、俺の眉が寄る

すぐに五十嵐から顔を離したところで沙良が俺の横を通って駆け出した



「沙良ッ!!!」
「待って!」


俺の腕を取る五十嵐を睨みつけると、五十嵐の勝気な顔が一瞬歪む
それでも気の強いこの女はすぐに俺に笑いかけ、そして俺の耳に顔を近づけてきた



「や・く・そ・く、覚えてる?」
「………ッ」



チッ…---



一瞬、舌打ちしそうになったのを止めて五十嵐から視線を逸らす


この女は相当性質が悪い---
本当はこの女など振り切ってすぐにでも沙良のもとへと走って行きたい…




沙良…
ごめんな---


でも、この女との約束さえ守ればお前はもう楽になるから
だから…


堪えてくれ---




沙良---


愛しい人の名を呼びたいのに五十嵐が横にいては、呟く事も出来ず歯噛みする





ホンと忌々しい女だ---




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