鳥のさえずりが室内まで聞こえる。

清々しい日の光りがカーテンの隙間から射し込む心地良い朝。

私は洗面台の前に立ち、覗き込むように鏡の私を眺め
ながら寝癖を直していた。

メイクは30分前に済ませている。

いつでも出勤出来るように準備万端。

それに引き換え子供のように規則正しい寝息をたてて、気持ち良さそうにベッドで彼は眠っている。

私は彼の寝顔につい見とれてしまう。

このことは毎日の日課になりつつある。

長いまつ毛が伸びる瞳を閉じていても、端整な顔立ちは崩れることない。

彼が眠っているベッドサイドに、音を立てないように近づき膝立ちをする。

私は枕元までそっと顔を近づける。


「矢嶋さん、起きてくださいね。
もう時間ですよ。」


驚いて飛び起きないように耳元で囁くような小声で肩を軽くトントンと叩きながら起こした。

すると、彼は何の前ぶれもなしにガバッっと掛け布団を乱暴に捲り上げる。

そして私の目の前にいきなりすっと腕が伸びてきて、私を乱暴に引き寄せ、ベッドに転がすように仰向けに寝かせた。

そして器用に彼の片方の腕で私の顔を引き寄せ私の唇にキスをする。


「せっかく時間かけて化粧したのに、口紅が取れてしまうじゃないですか。」


大げさにわざと私は口元をつぼめ、拗ねた振りを彼に見せ恥ずかしい気持ちを押し隠した。

そんな素振りを見せていた私であったけれど、内心は彼の誘惑に負けてしまいそうになっていたもうひとりの自分が存在していた。


「ゆ・う・は、あと……3分だけ……。」


彼は私の耳元で、砂糖菓子のような甘い声でささやいた。

そんな彼の声に脳内がふわふわと浮きたつ。

私は彼の甘い誘惑に流されてしまう。

彼からうける軽いキスが徐々に激しさを増し、お互いの舌を絡めあう深いキスに変わっていく……。


今日も彼の甘い誘惑に私の理性を崩壊させていった。

その時、何かがガタちょ落ちる音がした。

私は心地良いふわふわとした夢心地の中から、現実へと引きづり出された。

ベッドサイドに置いてあった飾り気ひとつないシンプルな無地のケースに覆われている部長のスマホに私の肘が当たってしまい、誤って落ちてしまったのだ。


「……もう……ダメ……。
遅刻してしまう……。」


もう少し彼と甘い時間を過ごしていたい気持ちが私の中にくすぶり消化不良な気持ちがあったが、それを内に押し込んで理性を保とうとするもう一人の私が邪魔をし現実へと戻した。


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