引き立て役よさようなら(番外編追加)

同情じゃないよ一目惚れ

優花は男の顔を見たまま固まっていた。
「そんなとこで突っ立ってないで、座ったら?」
男はさっきまで優花が座っていた椅子を指さした。
勢いよくお金を出して立ち上がった手前、もう一度座るのは
何となく嫌な気分だが、ずっと突っ立てるのはもっと恥ずかしいので
渋々座った。
「これはいらない。誘ったの俺だから・・・」
そう言って優花が置いたお金を返した。

「さっきの・・・何なんです?」
「何って・・・だから彼氏になってあげるって言ったんだけど?」
男は酒を一口飲むとグラスを置いた。
何で初対面の男にこんなこと言われるの?
大体、この男の名前すら知らない・・
「あの・・・彼氏になってあげるって言う前に何か忘れてませんか?」
「ん?」
「私あなたの名前も知らないんですけど・・・・」
男はハッとした顔をしたかと思うと、クスッと笑った。
「あーそうだった。ごめんごめん、なんかあんたといると
楽しくってさ~すっかり忘れてたわ。
俺の名前は大野達央(おおのたつひさ)32歳。独身で彼女なしの
自由業。あんたは?」
「桐谷優花、25歳・・・駅前の家電ショップ『タケダデンキ』勤務です。」
散々おしゃべりした後に自己紹介って結構はずかしい。
「で?お互い自己紹介もしたことだし・・・どう?俺と付き合ってみる?」
言葉そのものは軽いのだが、なんか違う意味でオーラを感じる。
一体この男は何者?自由業って・・・
だが、付き合うっていうのはこんなノリで始まるものなのか?
好きだから付き合うんじゃないの?
出会ってまだ数時間。相手の性格も何もわからない人と普通つきあえるのか?
今までこういった経験がほとんどない。
いや、全くない優花は戸惑うばかりだった。
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