おにぎり屋本舗 うらら
 


うららの戸籍上の父親は、公安の桜庭という男だった。


三年前に70歳で他界したが、それまでは梢とうららの三人家族だった。



うららは梢を「ばあちゃん」、桜庭を「じいちゃん」と呼んでいる。



それは十年前、8歳のうららが養女として貰われて来た時、

親子に見えない歳の差に、そう呼べと言われたからだ。




杉村はうららをおにぎり屋まで送る。


「おっちゃんありがと。
また明日ね!」


うららはそう言って手を振り、玄関ドアの中に消えた。



うららがいなくなると、
杉村はにこやかな笑顔をスッと消した。


ポケットから煙草を取り出し、煙りをゆっくり夜空にくゆらす。



「聖女アバタリ…」



そう呟き、うららの消えた玄関扉を、ジットリと見つめていた。




―――――…






< 50 / 284 >

この作品をシェア

pagetop