最近の子は、人を慰めるのにキスしたりするんだろうか。


光恵は原稿を前に、無駄に時間を過ごしていた。鉛筆で意味のない円を、ぐるぐると書き続けている。


あれから何日か経過して、ショックから表面上は回復したように思う。
人間て結構強いな。
光恵は人ごとのようにそう思った。


夕方の稽古場。光恵が書き換えなくてはならないシーンをのぞいて、稽古は続けられている。今は簡易の舞台上で、孝志と輝が演じていた。この本の中で、唯一の二人きりのシーン。光恵はぼんやりと二人の姿を目で追った。


「あ、またあいつ、つっかっかってる」
後ろの方から、役者の一人が言った。


「最近、輝のやつ、妙に孝志に食ってかかるな」
「お前もそう思う?」
「うん、なんか主張しはじめたっていうか。割とあいつ、センターはるけどあんまり主張しないやつだったろ」
「そうだな」
「孝志が憧れの存在から、ライバルにでもなったのかな」
「かもしんないな」


そう聞いて、光恵が舞台上の二人の会話に注意を向けようとしたそのとき、


「佐田さんが変わろうとしたように、この劇団も新しくなろうとしてるんです!」
輝の声が稽古場に響いた。


「それは分かるよ、でも……」
「もうここは、あなたの帰ってくる場所じゃ、なくなったんじゃないですか?!」


輝が叫ぶと、孝志の顔色が変わった。口をつぐみ、紅潮している輝の顔を凝視した。