おそるおそる稽古場の扉を開く。もう出て来ていた劇団員達が光恵を捉えて、あっという間に冷やかしの視線を浴び始めた。


「おい、ミツー、お前すげーな。なんかまじめそうな顔して、実は小悪魔?」
「今や天下の佐田孝志を、過去手玉にとって、それで、今はこの劇団の看板俳優を虜にしてんの? まじかよ」
「孝志に捨てられたの? それともお前が捨てたの? どっち?」


光恵は耳に手をあてて、逃げるように自分の席についた。


「俄然、この稽古場が楽しくなったなあ」
役者達は楽しそうにしゃべってる。


当の孝志は、他の役者達と楽しそうにしゃべってる。『光恵が好きだった』と告白することによって、どうやら昔の自分を皆に思い出させることに成功したらしい。この舞台が始まってからずっと存在していた壁が、今は低くなっているように見える。


「わたしをダシにして……なんてやつだ」
光恵は口惜しくて、思わず小声で悪態をついた。


コンピュータの電源を入れて、自分の仕事にとりかかる。きっと今日で脚本の微調整は終了するはず。そしたらもう、光恵の出番は極端に少なくなる。呼ばれた時にくればいいのだ。


「さっさと仕事終わらせたら、こんなとこ来る必要ないし」
光恵はぶつぶついいながら、コンピュータに向かった。