開演を知らせるベルの音。
ざわついていた観客席に、静けさが波のように広がって行く。


孝志は深呼吸する。
緊張しているけれど、心は解放されている。


発光テープのマーキング。
裏側は木がむき出しの舞台装置。
でも、幕が上がると、ここはレストランの厨房になり、
俺は、物語の主人公、不器用なシェフになる。


オープニングの音楽。
ゆっくりと幕が上がり、観客の気配が舞台の上に満ちてくる。


孝志は目を閉じ一息つくと、舞台の床板に踏み出した。


大きな歓声。
照明が皮膚を焼き、呼吸すると身体が燃えるように熱い。


台詞は自分の言葉となって、自分から発せられる。


見て
聞いて
笑って
泣いて。


自分のなかで、光恵の描く人間が息をしている。