二週間が過ぎた。


光恵の執筆は、徐々に進み始めた。新しく入って来た少年、「野島輝(てる)」からインスピレーションをもらったのだ。ただ、彼はまだ駆け出しの新人なので、今回の舞台ではほんの端役だ。けれど周りの期待は高い。きっと観客を惹き付けてくれるだろう。


「ミツ」
「邪魔しないで、今書いてるんだから」
「でも、ミツ、俺、暇だよ」


夜十時。孝志はダイニングテーブルでミツの向かいに座り、ちょっかいを出してくる。


「走ってくれば?」
「ええ? もうノルマはやったもん」
「あと二週間だよ、やりすぎってことはないって」
「つまんねー」
「子どもじゃないんだから、自分でなんとかして」


孝志に邪魔されると、ミツは無性にイライラしてしまう。だいたい、自分の都合でここにいる癖に、リクエストが多すぎる。


「ミツ、キャンディーチーズ食べていい?」
孝志がブルーの冷蔵庫を開けながら訊ねた。


「一個だけね」
光恵は孝志を振り向きもせず、そう答えた。


「ちょっと散歩行ってくる」
暇を持て余した孝志が、玄関で靴を履きながら声をかけた。


「うん、いってらっしゃい」
光恵は孝志を見ずに、手を振る。


玄関の閉まる音。
それから光恵は猛然と書き始めた。