MOONLIGHT【番外編~ウエディング、新婚旅行!?編】

★浜田ジョーのため息




マジ、ため息の出るような、イイ女だった。

だからって、俺がその女をどうこうしようなんていう気持ちはサラサラなかったが。

だけど、一瞬にして心を持っていかれたんだろうな…無意識に、奥のあの席に、その女を案内したくらいだからな。


奥のあの席は…特別な席だ。


ここ、グランドヒロセ横須賀の最上階『TOP OF YOKOSUKA』には、特別席が2つある。

一つは、見晴らしのいい窓側中央の席で、いつも予約席の札がたっている、場所。


そして、もう一つは。

窓側だが目だ立たない一番奥の、隅の席。

予約席の方は、麻実の家族しか座れない特等席。

奥の隅の席は、麻実ゆかりのダチだけが座る思い出の場所。

実際予約席の方には旦那でこのホテルのオーナーの広瀬松太郎と一緒の時にしか、麻実は座らなかったし。

まあ、広瀬はそんなことは知らないが…。

麻実は1人で此処へ来る時は、いつも奥の隅の席に座っていた。

飛びぬけて美しく目立つ女だったのに、そんなに目立つことが実際には好きでなかったのだ。

だから、ここでの麻実を思い出す時、いつも奥の隅に腰掛けている姿が浮かぶ。

最後にここにきて、1人で青山に電話をしたときだってその奥の席に座っていた。

だから、麻実のダチにしかその席は座らせないのに。


しかも、あの日――

客はまだ誰もいなかった。

なのに、何故か…彼女を無意識に、あの席に通してしまった。


彼女が、席に座りビールを2つ注文してきて、初めて自分の失態に気がついた。

俺は、何でここへ彼女を座らせたんだ?


そして、2つ、という注文をいぶかしく思った。

まさか、麻実が――?

そんな血迷った考えさえも頭に浮かんだ。


まじまじと目の前の彼女を見る。

少し疲れた顔をしているが、とても美しい。

クールビューティーという言葉がとても合う。

聡明な…クレバーな印象だ。


注文の通り、ビールを運ぶと、1杯目を一気に飲み干した。

ああ、そうか。

彼女はたんに、飲みたかったんだ。

そして、バーボンのオンザロックを注文。

ペースは早いが旨そうに飲む。

タバコも、旨そうに吸っている。


ああ。

単に、タバコと酒を楽しみたいんだな、と納得した。

こういう客は嫌いじゃない。




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