反比例の法則
1章 興奮と甘心


オフィスを出て、40分。

隣市のショッピングモールの大型駐車場の一角に到着した私は、大きな紫色のテントを目の前に立ち止まった。

駅構内の広告やショッピングモールまで乗り継いだバスの車内で見かけたポスターでイメージしていたモノが目の前に現れ、圧倒されていた。

想像していたモノより遥かに大きく、そして、どこからともなく溢れ出す熱気のような物がひしひしと伝わって来たからだ。

ドゥンッ、ドゥンッ、ドゥンッ、ドゥンッと軽快なリズムを刻むBGMに、どこからともなく漂ってくる甘い香り。

日常の世界とは一味違う空気がそこにはあった。

バッグの中からチケットを取り出し、ほんの少し早まる鼓動を感じながら、テントの入口へと向かうと、


「レインボーサーカスへ、ようこそ!」


白いYシャツに黒いベスト、そして黒いズボンにヘッドマイクを装着したスタッフが、にこやかな笑顔でお出迎え。

私は軽く会釈をしながら、チケットを手渡した。


「SA席11番ですね。お入り頂きましたら、中央の階段からお進み頂き、前から3列目のお席へどうぞ」

「あっ………はい、ありがとうございます」


私のチケットを確認したスタッフは、とても丁寧に座席の位置を教えてくれた。

入口のゲートをくぐった私は、スタッフに言われた通りに中央の階段へと進んだ。


30段程上った先は観覧席の最上階で、階段はそこからステージへと向かい降りる仕組みになっている。

私はスタッフに教えて貰った通りに前から3列目の席へと……。


「えっ?」


< 5 / 9 >

この作品をシェア

pagetop