焔のものがたり
 街の広場では様々な人がせわしなく行き来していました。ローエンはベンチの傍に立ち、呼びかけました。
「マッチはいりませんか」
 初め、人々はマッチになど見向きもしません。ローエンの細い声は町の雑踏にかき消されてしまいます。しかし、妖精の粉の美しさは人々をひきつけ、日が暮れる頃には籠の中はすっかり空になってしまうのでした。
 マッチを売ったお金でローエンは一つのパンと角砂糖を二つ買いました。それがローエンの取り分で、残りは全て父親が没収してしまうのです。そのパンの半分と角砂糖を例の切り株の上に置き、ローエンは家に帰りました。
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