会社に戻ると、もう経理課は誰も残っていなかった。雪菜が資料とバッグを机に置くと隼人が口を開いた。

「これから飯でも行かない?」

 雪菜は耳を疑い、動揺した。私がさっき柴崎課長の誘いを断ったの、見ていなかったんだろうか。どういうつもりだろう。

 でも、隼人の表情は変わらなくて、何を考えているのかわからない。

「嫌ならいいんだけど」

「別に、嫌というわけでは……」

「じゃあ、どうする?行く?」

「え、……はい。じゃあ、……行きます」

 なんとなく断れなくて行くことにしてしまった。私なんかと一緒に食事に行っても、話すことなんてないと思うけど。

 男の人と一緒に食事に行くなんて、どうしよう。なんだか状況が掴めなくてドキドキして、エレベータに乗っている間も、外を歩く間も、ずっと黙って隼人の後ろをついて歩いた。

 隼人は会社からそれほど離れていない、こじんまりとした静かな雰囲気の店の前に立った。

「ここでいい?」

「はい」

 扉についた鈴をカランコロンと鳴らして店の中に入ると、表からは想像もつかないくらい店内は活気があり、人の声が飛び交ってガヤガヤとしていた。少し大きな声で喋らないと聞こえないくらいだった。

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