グレープフルーツを食べなさい
一緒に生きていこう
「残念だなあ、本当に。気持ちは変わらないの?」

「はい、申し訳ありません」

 一月も後数日で終わりという頃。部長の手が空いた隙を狙って、私は彼をオアシス部の隣にあるミーティングルームに呼び出した。部長には、たった今三月末で退職したいと申し出たばかりだ。

「ひょっとして結婚? それとも三谷さんなら転職かな」

「いえ、そのどちらでもありません」

 そう言うと、部長は困ったような顔をした。

「……そう、それで君はこれからやっていけるの?」

「はい、自分の蓄えと母が残してくれたものが少しはありますので、当分は」

 私の言葉に安心したのか、部長はホッと息を吐き出した。この人も、部下思いのいい上司だった。外食部の野々村部長といい、本当に私は上司に恵まれていた。


< 343 / 368 >

この作品をシェア

pagetop