CHECKMATE
5◇証拠の代償


元々、人と関わる事を避けて生きてきた夏桜にとって、静寂が苦手な訳ではない。
寧ろ、大勢で賑やかに過ごすより、一日中誰とも話さず過ごす事の方が気が楽だったりする。

だが、さすがにこの状況は…。
息遣いさえ許されないような緊迫感のある室内。
生唾を飲み込む音でさえ、高性能の音声マイクで拾われてるかのようで。

既に数分が経過。
微動だにせず、鋭い眼光で射竦められている。

ギュッと握る手にはじんわりと汗が滲み、これ以上、隠しておく事は出来ないと観念した。

「さっきは…、確認しに行っただけよ」
「確認?……確認って、何の?誰かが侵入したって事をか?」
「ん、まぁ、最終的にはそうね」
「だが、前にも話したと思うが、ここにいる事を知る者は殆どいない」
「ゼロじゃないじゃない」
「それはそうだが…。まさか、猛や副総監を疑ってるのか?」
「……疑いたくは無いけど、現に状況がそう思わせてるわ」
「………」

千葉は鋭い視線を夏桜に向けたまま、これまでの経緯を思い返していた。
剣持が疑われるのには理由がある。

上層部の人間以外で、千葉のマンションに住んでいる事を知っているのは、剣持だけだからだ。
夏桜の個人データをチーム『S』のメンバーで共有するようになったからとはいえ、千葉のマンションに住んでいる事までは話していない。
夏桜の病に関しての事と同じく、千葉はあえて伏せたのである。

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