冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




紬さんの口から、彼女を受け入れる意味の言葉は出なかったけれど、彼女の強引さがそれを受け入れたとは思えないし、結局は元のさやにおさまったのだろうか。

……私には関係ないけど。

そう、私と紬さんとの間にこの先続いていく縁があるわけじゃないし、関係ない。

関係ない、そう自分に言い聞かせながらも、ふと思い出すのは唇に残る熱。

会ったばかりの私を抱きしめて、突然重ねてきた唇の柔らかさを、まだ感じられる。

紬さんの唇を拒むことができなかった自分が悔しくてたまらない反面、思い出すたび体が熱くなり、どきどきして眠れない。

夕べだって、このメールを見ているうちにあの日のキスを思い出して夜が明けてしまった。

おかげで今日は打ち合わせ中に眠気に襲われて大変だった。

「無理無理。紬さんは、無理なんだから」

あんな強引な人、それに、私のことを好きでもなんでもない人と結婚なんて、無理なんだから。

バックミラー越しに運転手さんから向けられる怪訝な視線を気にしながらも、何度も小さく頷いた。

まるで、自分に言い聞かせるように。



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