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《……ちゃんとわたし、わかってたよ。伊瀬がわたしのこと、“そういう対象”で見てないことくらい。だって、嫌だもんね? 自分より、背が高い女なんて》



そんなふうに、冷たい口調で話すくせに。

それでも無理やり振り向かせた彼女の顔は、ひどく、傷ついた表情をしていて。



《……佐久真、》



彼女のそんな表情を見た瞬間、俺の中に沸き上がったのは──最低なことに、満足感と優越感。

……佐久真のこと、そういうふうに見たことない、なんて。

先輩たちにからかわれたとき、あんな言い方しかできなかった自分を、責めて責めて責めて。

だけど、同時に……俺の言葉で傷ついた顔をしている佐久真が、愛しくて愛しくて愛しくて。


強引に重ねたくちびるは、あの日と変わらず、まるで麻薬のように俺を狂わせた。

ただひとつだけ違ったのは、目の前にいる彼女から、雨の匂いがしないこと。



《は、……こうしてると、身長の違いなんてたいした問題じゃないな》



──あの、雨の日。どうせ叶わない想いなら、めちゃくちゃになってしまえばいいと思った。

だけど結局、俺は心のどこかで、高をくくっていたのだ。


……佐久真は絶対に、俺のことを、嫌いにならないって。