きみのふいうち
ふたりきりの夜


「あ」


ピー、と無機質な音を立てて、目の前のプリンターが唐突に紙を吐き出すことをやめた。

またか、と思わず、小さく息を吐く。

わたしは紙がつまってしまったプリンターを復活させるべく、ガコ、と鈍い音を立ててオフィスプリンターの扉をあけた。



夏から秋に変わりはじめた今日この頃。

今週はやけに雨の日が多く、秋の日の雨の気候というよりは梅雨時のそれのようにやたら湿度が高かった。

今日も例にもれず、窓の外ではしとしとと朝から雨が降っている。

きっとそのせい。

そこまで古い型ではないと思うんだけど、湿度が高いと、わたしのフロアにあるプリンターは紙詰まりを起こしやすくなってしまう。

タイミング悪く、今週はわたしが勤務する階の空調設備の点検中で、今は除湿もままならない状態だった。

おかげで、印刷のときに紙がくっつきやすくなるだけじゃなく、わたし自身、べたべたと服も髪も肌にまとわりついてきて、気持ちが悪い。

気温はそんなに高くないはずなのに、すごくムシムシして暑く感じる。


「もう、本当にあっついなぁ」

熱い機械の中で身動きがとれなくなっている紙たちを救出しながら、わたしは思わずひとりごちた。

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