【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!


あの日と同じ形の月が浮かぶ夜だった。少しだけ肌寒かったので、お腹に膝賭けを巻いて月を見上げる。
縁側には、月の淡い光が落ちてきていて、小さなスポットライトのようだ。

桔梗さんの出産や検査結果の陽性反応、未だ興奮が冷めなくて眠れなかった。

明後日の食事会で、――私が平穏をめちゃくちゃに壊すんだ。

こんな穏やかな日は、最後かもしれない。


「美鈴」

隣の部屋にいるはずの妹の名前を呼ぶ。

「美鈴」

私が逃げていたくせに、こんな事になってからやっと向き合おうとするなんて。

「安心してね。私、幹太さんとは結婚しないから」
出来ない、の方が正しいのかもしれないけれど、今はそう言う。

聞いているのか、聞いていないのか反応はなかったけれど、それならばそれで良い。

ただ、私が楽になりたいから話す、エゴなのかもしれない。


「ずっと美鈴が羨ましかった。跡取りじゃないからと、決められレールなんて何一つなくて好き勝できて。それなのに跡取りになりたいと自分からこんな柵(しがらみ)にしがみついて、私の居場所さえ盗んで行った。でも、今は感謝しかしていないよ」

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