【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!


「あの、もう跡取りでもないし、鹿取家代表としては行けないし。わ、私」

袴を握りながら、居たたまれない、居心地の悪い気持ちが、じわじわと心を蝕んでいく。
心まで私は地味で可愛くなくて。自分でも本当に嫌になる。


「着ていく服もない、です。着物で注目されるの、好きじゃなくて」

妹のピアノの発表会でも妹は水色のスカートがふわりとした可愛いドレスだったのに、私は着物だったし。どこかに出かける時はいつも着物ばかりで、洋服なんてあまり持ってないし。

「分かりました。私に任せてください」

デイビットさんはその長身で跪くと私の俯いた顔を覗きこんだ。

碧い目に覗かれると、どうしていいのか分からない、熱い鼓動が胸を震わす。
宝石みたいで、綺麗すぎて私には怖い。

「デイビットさん、あ、まり見ないでください」

「何で? やっと涙も止まったのに。今度は貴方の笑顔も貰いますから」

自信満々にそう笑うと、私の髪に頬を擦り寄せてから立ち上がる。

「二日後に、また来ます。いつ来るかは言いません。――言わなかったら貴方は私がいつ来るかと、頭の中で私を思い浮かべますからね。言いません」
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