「ねぇ、沙穂。僕、沙穂の全部が知りたい」

抱きしめていた腕を解き、乾君が不意にそんなことを言う。

「全部?」
「体じゃないよ」

イタズラにそんなことを言ってくるから、思わず顔が熱くなった。
そんな私を見て、彼は笑っている。

もう、からかって。

そう思いながらも、おかしくて自分も笑ってしまった。

「今までの沙穂のこと。どんな人たちと出会って、どんな風に過ごして、どんな風に頑張ってきたのか」

乾君は、私の目をじっと見つめて、ね。なんて顔をする。

「ん~。それを全部語るには、かなりの時間がいると思うよ」

何分、この年ですから。
なんて事は、言わずにおく。

「時間なんて、いくらかかってもいいよ。だって、それだけ一緒にいられるってことだし」

にこりと、彼が微笑む。

「少しずつでいいんだ。僕と一緒の時に、話して。沙穂のことを、僕に」
「うん」

そうだね。
少しずつ知って欲しい。
彼に私のことを少しずつ。
そして。

「私も乾君のことを知りたい」
「うん。少しずつ」

お互いに目を見て、それから笑顔でコツンとおでこをくっつける。

「あと。二人でいる時は、乾君はちょっと」
「え? ああ、そうだよね。うーん。じゃあ、聡ちゃん?」

ちゃん付けなんて、自分で言ってからおかしくて笑ってしまった。
乾君も、まさかのちゃん付けに苦笑いだ。

「じゃあ、聡太君? 聡太?」
「あとのほうで」
「うん。聡太」

私は、聡太の首に腕をまわして抱きついた。
そんな私を聡太が優しく抱きしめ返してくれた。