「気をつけろよぉ」

倒れこんできた私を河野が支えるようにしてくれたおかげか、膝や手は痛いもののそれ以上の痛みは何処にも感じなかった。

「ごめ~ん」

イタタタ。と顔を顰めているとすぐそばで河野が冗談を言う。

「とりあえず、起き上がってくれ。それとも、このまま俺を襲う気か?」

河野も何処かしら痛いのだろう。
いつもの茶化しは忘れないけど、かなり顔を顰めている。

「ああ、ごめん、ごめん。クッションかと思ってた」

冗談に対抗して応えると、ケッとこぼし笑っている。

「つーか。気をつけろよ。大事な商品があるんだからな」
「仕方ないじゃない。あんなところに、工具箱なんて置いておかないでよ」

文句を言いながら立ち上がると、河野が手を貸してくれる。

「足元くらい見て歩けって」

呆れながら立ち上がらせてくれる河野に感謝しつつも、文句だけは忘れない。

「見えなかったのっ」

子供みたいに言い返してから、転んだ時にスーツについた倉庫の埃をパンパンとはたいていると、一緒になって立ち上がった河野がわざわざ顔を近づけてきてふざけたことを言い出した。

「真面目に働く俺の姿に見惚れてたんだろ?」

間近に迫ってくる顔にしかめっ面を向け、睨みつけるようにいってやった。

「冗談は、顔だけにして」

ふざけ続ける河野にドリンク剤を突き出すようにして渡すと、笑いながら受け取っている。
それにしても、膝がひりひりして痛い。

「ああ。もう、子供みたい」

おもっきり擦りむけている膝と、破れてしまったストッキングを見て情けなくなる。
この年になって、膝に擦り傷なんて、全く笑えない。

スーツのスカートからバッチリと見える膝の傷は、ストッキングを履き替えたとしても赤々と目立つことだろう。

電車はやめて、タクシーでも呼ぶか。