この日の朱里は朝から落ち着きがなかった。
今日は下請け業者と新企画の打ち合わせをする日だが、会社の会議室を他部署に先に押さえられてしまい、外での打ち合わせになった。
先方が指定してきたのが中山が働くカフェだった。

中山は夕方からシフトに入ることが多い。
昼過ぎの打ち合わせ中にお店にいることはないはずだったが、それでも気持ちは落ち着かなかった。



上司と先に席を取っておこうと店内に入ると、予想が外れレジに中山が立っていた。

目が合ってお互い面食らってしまったが、中山はすぐに

「いらっしゃいませ」

と言い笑顔を向けた。

「後から人が来るんですが、先に席を取っていいですか…?」

「はい、どうぞ!」

朱里の問いに中山はニヤニヤして答えた。

4人座れるテーブルは1つしか空いていなかった。
そこは店員がいるカウンターの斜め前、つまり中山から丸見えの席だ。
カウンターを背にした席に荷物を置くと、ちょうど待ち合わせの業者も店内に入ってきた。
名刺交換を済ませ、注文をしに中山の前に行く。
上司と業者がそれぞれ注文をし、最後に朱里がレジの前に立つと、

「アイスティーでよろしいですか?」

「あ、はい…」

「240円でございます」

中山は横にいる女性店員に

「お次はアイスティーでガムシロとミルクです」

と伝えた。
朱里が何も言わなくてもアイスティーの横にガムシロップとミルクが添えられた。

「ごゆっくりどうぞ」

満面の笑みに呆れてしまった。
どうやら中山は本当に朱里の頼むものを覚えているらしい。



打ち合わせ中も中山の接客時の声がよく聞こえた。
落ち着かないまま1時間以上の打ち合わせを終え、グラスを返却口に下げた。
すると女性店員が

「恐れ入ります」

と声をかけると中山も

「恐れ入ります、ありがとうございました」

と復唱した。
お店を出る前に中山と目が合い、また朱里に向かって目立たないよう小さく手を振った。





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