この日は珍しく残業だった。
入社3年目になってだんだんと責任ある仕事を任されるようになると残業も多くなっていた。今日も21時を過ぎて会社を出た。

学生時代から憧れて入った業界の、大手とは言えないがそこそこの知名度はある会社だ。
以前は片道1時間半かけて通勤していたが、去年会社が移転して早ければ30分で行き来できる。

こういう日は会社と家が近くてよかったと思う。
自宅の最寄り駅から電車で4駅。
急行が止まらないというのが難点だけど最高の環境だった。



駅の階段を上っていると、上から大きな段ボールを抱えながら下りてくる人が目に入った。
顔が見えないほど大きく、上下に2つも重ねている。

落ちそうで危ないな…

朱里は疲れた頭でぼんやり思ったときだった。
段ボールを持った人が後ろから下りてくる人を避けようとすると、バランスが崩れ上に置いた段ボールを階段に落としてしまった。
バサバサと大きな音が響いた。
段ボールの中身が朱里の足元にまで落ちてきた。

落とし主は階段上にあるカフェの男性店員だった。白いシャツの上に制服の黒いエプロンを着ている。
それは笑顔が印象に残る学生の男の子だった。その子が今はこの状況に顔を歪めている。

男の子の後ろからは続々と人が下りてくる。
ちょうど電車が駅に着いて、改札から人が出てくるタイミングになってしまったのだろう。
男の子が慌てて中身を拾うも、下りてくる人に蹴られたり踏まれてしまった。

誰一人この状況を見ても男の子を手伝って拾おうとはしない。
みんな仕事や学校帰りで疲れているのだろうか。

見かねた朱里は足元に落ちてきた中身を拾い、男の子に駆け寄る。

「手伝いますよ」

「す、すいません…!」

男の子は朱里の顔を見ると顔を赤くして、申し訳なさそうに謝る。
段ボールの中身はドレッシングのボトルやペーパータオルが入った袋だった。
蹴られたり踏まれても、割れたり破れたりはしていないようだ。

この作品のキーワード
カフェ  年下  社会人  大学生  年の差  バイト  ナンパ  三角関係  床ドン  すれ違い 

感想ノートに書き込むためには会員登録及びログインが必要です。