裏腹王子は目覚めのキスを
 
あの夜以来、油断するといろいろと考え込んでしまって、まるで幽体離脱でもしているみたいに、意識が離れてしまう。

自分が今どこにいて、何をしているのか、分からなくなる。

記憶が曖昧になって、夢の中にいるのか現実に立っているのかすら判別がつかない。

 
この三日間はずっと、どこにも出かけず誰とも話さず、あの広い部屋でひとり、ぼうっと過ごしていた。
 
出発当日の昨日の昼、桜太からの電話で『姉ちゃん結局旅行行くの?』と聞かれ、わたしは思い出したように旅行の準備をはじめたのだ。

あわてて支度をしたせいで、ビーチリゾートに行くにもかかわらず水着を忘れたことに気がついたのは、空港に着いてからだった。
 
何してるんだろう、もう……。
 
今ここにいる状況も含めて、自分のやっていることに実感が湧かない。
ふらふらと心が浮遊してしまい、飛行機の座席に座っている抜け殻の自分を空中から眺めているみたいだった。
 
心の中ではずっと考えてる。
 
わたしはここで、何をしてるんだろう。
健太郎くんと旅行に来て、本当によかったんだろうか。
 
トーゴくんは……なんであんなことをしたんだろう……。
 
ひとつの考えが脳裏をよぎるけれど、まさか、と思ってしまう。
 
わたしは機内モードに設定してある携帯を取り出して、鳴らないそれをぼんやりと眺めた。

  
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