夏恵
【2章】 『僕』と言う男

トカゲ

 暑い

ムワリと僕の周りを取り囲む空気は手で扇ぐだけでは到底払いきれない。

セミの鳴声は暑さに拍車をかける。ネクタイの結び目を軽く解きシャツの内側に篭った熱気を少しでも逃がそうと足掻く。

バスを降りてから、ほんの数十メートルと歩いていないのに僕は既に熱気に負けそうになっている。

蒸れたシャツの胸ポケットに入っている携帯が鳴る。


『・・・・はい・・・ええ今着いたところです。・・・ええ分かってます。』


僕は頂点に達した太陽を恨めしげに睨みつけながら上司からの電話に応える。

一方的な会話をしながら、目的地まで歩く。

電話を切って程無くして駅からバスで十分ちょっと、バス停から歩いて数十メートルの雑居ビルに到着した。

おおよその家賃が見当つきそうな外壁のコンクリートが酷くくすんだ雑居ビルの4階に目的の会社を見つけた。

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