「坂崎さん、おはようございます。好きです」

私の会社には清掃員さんがいる。
薄緑のつなぎと目深にかぶったお揃いの帽子、そして手に持つモップが彼のトレードマークだ。

「……どーも」

不愛想だし目つきは悪い。
帽子とつなぎの間から覗く髪は社会人あるまじき明るい茶。

けれど私の愛の告白にも止まることのないモップがけが彼の真面目さを表しているし、お客様を出迎える瑞々しい花が季節ごとに咲く我が社のエントランスはこのオフィス街で一番綺麗だ。

「今井。早いな」

そんな坂崎さんを見つめていたら、後ろから低い声が聞こえてビクリとした。

「……柳瀬課長。おはようございます」

その人はこの春本社へ赴任してきたばかりの若き課長だ。

「おい。あそこゴミ落ちてるから拾っておけよ」

チラリと坂崎さんは課長が顎で指した方を一瞥した。
それは課長が今通ってきた方向。確かに、たばこの吸い殻が落ちている。

(坂崎さんと少しでもおしゃべりできるかと思って早く来たのにな……)

残念な気持ちを抱えて課長の後に続いて歩き出した私は。

「今井さん」

突然かけられた声に心臓をギュッと締め上げられた。

「いつもどーも」

坂崎さんが、私にゴミ箱を差し出していて。
私は握りしめていた、エントランス前で拾った煙草の空き箱をその中に放り込んでニコリと笑った。

素っ気ない坂崎さん。でも少しだけ、口角が上がっている様にも見えなくもない。

「今井、どうした?」

なんでもないですと、慌てて課長を追った足は軽かった。

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